2025.04.29 CASE INTERVIEW

海の環境変化に立ち向かい、海外市場を開拓。築地老舗仲卸「山五商店」が挑む、穴子の冷凍ビジネスとグローバル展開

創業80年を超える老舗仲卸「山五商店」は、築地を拠点に全国各地から穴子や旬の魚を集め、大手ホテルや高級寿司店、天ぷら専門店へと鮮魚の卸事業を展開。特に「煮穴子」に定評があり、その質の高さと確かな目利きで、多くのプロの料理人から信頼を得ています。また、築地場外「築地魚河岸」や大田市場では、一般消費者向けの小売販売も手掛け、年末の繁忙期には長蛇の列ができるほどの人気です。

山五商店では、計画的な生産と販売チャネルの拡大を見据え、特殊冷凍機「アートロックフリーザー」を導入。その結果、生産効率が向上したほか、気軽にお召し上がりいただけるお弁当「穴子めし」などの新商品開発に成功しました。さらに、この技術を活用しシンガポールなど海外展開を加速。持続可能な水産業の未来を見据えた挑戦を続けています。山五商店の山崎代表に、導入の経緯や今後の展望をお聞きしました。

穴子は天然しかない。とれる時期に資源を確保しなければ、活魚の販売事業は厳しい時代に

ーーーー冷凍技術の活用を検討された背景を教えてください

ここ数年で海の状態が変わり、従来の主要産地で魚がとれなくなったり、反対にとれなかった場所で急にとれたりといった現象が起きています。江戸前(東京湾産)なんてほぼ幻で、最近では北海道で穴子がとれるようです。時期も一緒で、夏は豊漁の季節ですが、去年は全然獲れなかった。また、最近は台風が日本の近郊で急に発生するので、そうすると漁師さんたちはシケで海に出られません。もう20年以上この業界で穴子をやっていますが、半分くらいの漁師さんが魚がとれないから辞めてしまっているんです。また、品質の面でも、うちは脂がのっている穴子の選別をかける「目利き」を大事にしていますが、量が獲れないと、お客様にいい状態のものを提供できません。穴子は養殖がなく天然だけなので、このままでは非常に厳しい状況でした。

こうした気候変動の影響で天然穴子の漁獲量や品質が不安定になり、安定供給が難しい中で、お客さんにご迷惑をかけない計画的な生産体制を作らなければならなかった。さらに、事業を継続・発展させていくためには、より広範な販路を開拓する施策が求められていました。そこで注目したのが、最新の冷凍技術です。とれるときに確保して、とれたての品質を保ったまま、安定供給や販路拡大を展開できる技術を求めていました。

空気で凍らせる凍結が、煮穴子の魅力、ふっくらとした身質を維持

ーーーーアートロックフリーザーを選ばれた決め手を教えてください

もともと冷凍技術について多少の知識がありましたが、当時は液体凍結しか知りませんでした。液体凍結の評判は聞いていましたが、真空してから液体に漬けるので、穴子の身がつぶれてしまい、うちの穴子とは正直相性がよくありませんでした。なかなかピンときていなかった時に、ある天丼屋さんから新しい急速冷凍機を試すと聞いて、凍結テストを見学させてもらったんです。その時に「アートロックフリーザー」に出会いました。食材をそのまま冷凍機に入れて空気であっという間に凍らせる様子を見て、煮穴子に応用すれば絶対成功すると半ば確信しました。

ーーーー実際に試されて、品質はいかがでしたか

一般的な業務用の冷凍庫で凍らせると、煮穴子水分が飛んでしまって、煮上げたての状態には戻りませんでした。でも、アートロックフリーザーでは、水分が保たれて、代々受け継がれる出汁の味がしっかりと残り、穴子のふっくらとした食感や見た目が担保できました。自分たちも何十回も試食しましたが、冷凍したと感じさせない想像以上の仕上がりでしたね。

煮上げた穴子を、真空せずにそのまま凍結させ、ふっくらとした身質を実現

冷凍技術の活用で、生産性向上と手軽な弁当商品の開発を実現

ーーーー導入されてどのような変化がありましたか

特殊冷凍を活用して煮上げを2段階に分ける体制を築き、圧倒的に効率化されました。まず加工場で煮上げたものをアートロックフリーザーで凍結し、お店でもう一度煮上げて提供する。これまではお店で生から煮ていたので、店舗での作業時間は30%程の短縮されました。最終工程としてお店でしっかり煮上げるので、味はこれまでと変わらない美味しさです。年末の繁忙期には大量の注文をこなすために深夜まで作業することもありましたが、計画生産の実現で従業員が働きやすく、丁寧に接客ができるようになりました。

代々受け継がれる出汁で煮上げる穴子。2段階で煮上げ、伝統の味が完成する

魚がとれない時にも売れるようになったことも大きな変化です。また、一般消費者向けの穴子めし(弁当)や穴子の蒲焼きなどの新商品の開発にも結び付きました。ラインナップが増えて、手軽に楽しめるとして好評です。さらに、広範囲な配送ができるようになったので、ここ最近はシンガポールをはじめとする海外市場への展開を加速させています。

オンラインで販売されている「穴子めし」(https://yamago-shoten.com/item/)

美味しいものを求めるのは世界共通。美味しい穴子を世界に届けたい

ーーーー海外での反響や手応えはいかがですか

これまでは、煮上げたものをそのまま海外へーーーなんて到底無理な話でしたが、アートロックフリーザーで冷凍することで、国内で評価される品質のまま海外に届けられるようになりました。現在は、シンガポールを中心にアジア圏で試験的な輸出を行いながら、海外市場でのニーズを探っています。

美味しいものを求めるのはどの国でも同じで、「美味しいものを届けたい」という山五商店のコンセプトに合っています。山五商店では工場で一つひとつ手作業で手間かけて製造しているので、手作りの本格的な味をシンガポールで食べられるって凄いことですよね。先日サンプルとして何十個穴子めしを送ったら、一瞬で無くなったから次を送ってくれと催促されました(笑)

世界の食文化の中でも日本食はやっぱり価値が高く、国内で当たり前に食べられるものが海外では高単価・高付加価値に評価されることは珍しくありません。その一つとして、海外では日本産の穴子が貴重で、新たな市場を開拓できる可能性があると考えています。できるだけコスト抑えて流通させて、美味しい穴子を世界中の皆さんに知っていただきたいです。

生産者から消費者まで持続可能な水産業の発展を目指す

ーーーー今後の展望を聞かせてください

穴子は高級食材のイメージが強いので、三次加工まで仕上げた穴子をご自宅へお届けして、もっと身近に穴子を楽しんでいただきたいと思います。また、消費者だけでなく、生産者にもしっかりと還元できるビジネスが理想す。穴子に関わる多くの漁師さんが、気候変動の影響で天然穴子の漁獲量が不安定な状況に苦しんでいます。漁師さんだけでなく、獲れなければ、加工業者も運送事業者も仕事がなくなってしまう。冷凍技術を活用することで、計画的な仕入れと販売ができるサプライチェーンを構築し、資源を無駄にせず、持続可能な形で水産業を発展させたいです。

また、冷凍加工・製造のOEM事業も少しずつ進めています。自社の製造で冷凍機を使用しない時間帯に他社の冷凍製品の製造を請け負うことで、設備の稼働率を向上させるとともに、最高の鮮度を保つ冷凍技術があることを知る機会を提供しています。高度な冷凍技術を知らない企業や、冷凍技術を活用したいけれど加工場がない企業は多いので、新しく魅力的な選択肢を提供することで、生産性やサービス向上に貢献できればと考えています。

山五商店 代表取締役社長 山崎大輔様

山五商店は、伝統的な魚の仲卸業を守りながらも、冷凍技術を取り入れたことを機に、時代に即した形で進化しています。今後も、冷凍技術を活用しながら、新たな市場の開拓と持続可能な水産業の実現に向けた挑戦が続きます。

プロフィール

  • 企業名:山五商店
  • 代表:代表取締役社長 山崎大輔
  • 住所:東京都中央区
  • 事業内容:穴子、鮮魚の卸売業

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