無添加パンを手がける「サラ秋田白神」。素材の良さを活かした「引き算のパン作り」を掲げ、自然食マーケットで長年支持を集めてきました。そんな同社が近年、大きく舵を切ったのが冷凍パンです。人手不足が進むなかで、品質へのこだわりを守りながら生産性を高める方法として、冷凍技術の活用を進めています。パンづくりの基本工程から、冷凍導入による経営の変化まで。サラ秋田白神が実践する冷凍パン製造の極意を、代表の津田雅俊様に伺いました。
ーーーーパンの製造工程について簡単に教えてください。
まず材料(小麦粉、砂糖、塩、酵母、水)を計量して混ぜ合わせます。ミキシングの時間はだいたい10〜15分。ロー、ミドル、ハイとミキサーの撹拌スピードを段階的に上げていきます。そこから高速回転させて、生地をバタンバタンと打ち付けるようにこねてグルテン膜を作ります。次に50〜60分程の一次発酵。生地が倍の大きさまで膨らみます。発酵が終わったら生地を分割して成形し、二次発酵。これも50〜60分程で、温度は30〜35℃、湿度は80%くらいが目安です。この工程で重要なのが、発酵のピークを見極めること。パンはオーブンに入れるとさらに膨らむ「窯伸び」が起きます。そのため最大まで膨らませるのではなく、ピークの1〜1.5割手前で二次発酵を止めます。ここを間違えると、生地が割れたりヒビが入ったりするので大事な見極めポイントです。
ーーーー焼き上がったパンは、どのように冷凍していますか。
オーブンから出した直後は表面温度が150〜160℃くらいありますが、20〜30分ほど置くと、表面温度が80℃くらいまで下がります。うちでは、この80℃程度まで粗熱を取ったところで、包装はせず、裸の状態でフリーザーに入れています。

パンは形状によって火の通り方が変わります。例えばフランスパンのような細長い筒状のパンは、360度から熱が入りやすく、芯まで火が通りやすい形です。同じ理由で、凍結もしやすく、解凍もしやすい。また、冷凍との相性で言えば、小さいパンの方が有利です。サイズが小さいほど温度が均一に伝わりやすく、良い状態で凍結・解凍できます。
ただ、パンは本来、大きく焼いた方が美味しいんです。中心部分にしっとり感や柔らかさが残るから。そこで一つの方法として、大きく焼いたパンをしっかり冷ましてからスライスし、その状態で冷凍するという方法があります。これなら美味しさを保ちながら、食べやすい形で流通させることができます。しかし、この方法はパン屋にとって手間がかかります。焼きたてのパンは柔らかくて切れないので、完全に冷めるまで待たなければいけない。そうなるとどうしても生産効率が下がってしまいます。

ーーーー冷凍パンに興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか。
今から8〜9年前ですね。それまでは「冷凍は悪」という印象を持っていました。焼き上げて一番おいしい状態になったパンを、わざわざマイナスの温度にするなんて、真逆の行為だと。でも、もし「いい状態で冷凍できる」のであれば話は別です。品質を保ったまま保存できるなら、フードロスも減らせますし、アップサイクルにもつながる。そう考えて導入を決めました。

実際に導入してみて、大きく改善したのがロスです。食品工場には大きく分けて「製造ロス」と「販売ロス」があります。例えば100個の注文をいただいた場合、焼き損じや破損に備えて、保険として5%ほど多めに作るんです。これまでは、その余分に作った5%がそのまま製造ロスになっていました。でも冷凍があれば、それを商品として活用できます。うちの年間売上は約3億円ですが、仮にそのうち3%が商品として販売できるようになると、計算上は約900万円の売上になります。単純な試算ではありますが、これはかなり大きな経済効果だと思います。
ーーーー冷凍導入によって、生産体制にも変化はありましたか。
以前は多品種変量生産で、100種類近くのパンを毎日作っていましたが、注文数は商品ごとにばらつきがあり、100個の時もあれば20個、5個ということもある。これではどうしても生産効率が悪くなってしまいます。そこで思い切って商品数を見直し、70〜60種類程度まで絞りました。そして、注文数が安定している商品だけを残す「少品種定量生産」に切り替えました。
今は人手不足の時代ですから、お客様の要望をすべて受けていては、いずれ工場が回らなくなってしまいます。そこで、お客様のニーズを別の形で満たせないかと考えたときに出てきたのが、冷凍パンという選択でした。工場は、見た目の演出で勝負する場所ではなく、素材や製法といった「もの」で勝負する場所。うちは素材のおいしさを引き出す「引き算のパン作り」が強みです。そして、その強みを活かしながら生産効率を最大化できるのが、冷凍パンだと思っています。

冷凍の最大のメリットは、計画生産ができることです。以前は、忙しい時は残業して、暇な時は早く帰るという働き方でした。でも今は、「なだらかに計画的に作る」という体制に変わっています。例えば春はパン祭りなどの商戦で、注文が増えることが毎年分かっています。そうした需要を見越して、事前に少しずつ作り溜めしておく。1日の労働時間に1〜2時間ほど追加して、無理のない範囲で生産して冷凍してストックします。
保管は冷凍倉庫を活用しており、保管費用は月20万円程度。商品単価の1%にも満たないくらいなので、自社で大きな冷凍設備を持つよりも効率的です。倉庫側で先入れ先出しや在庫管理、配送まで対応してくれるので、私たちは作った商品を持ち込むだけで済んでいます。
流通は基本的に、冷凍のままセンターから各店舗へ個配送していただく形が多いですが、一部のセンターでは、途中で温度帯変更して常温に戻し、店舗へ納品する仕組みもあります。生産者は冷凍で製造・保管・出荷まで行い、流通の途中で解凍して店舗に届ける。そうすれば、店舗側も扱いやすくなります。実際には、温度帯変更を引き受けてくれる販売先はまだ多くありませんが、この役割を担ってくれる事業者が増えれば、よりスマートな流通モデルになり、冷凍パンの流通はさらに広がると思います。

ーーーー販売先について教えてください。
販売先は、近隣の生協や、オイシックス系の宅配サービスなどです。大阪、京都、奈良、福岡のコープなどでも冷凍パンを扱っていただいています。今は常温販売が7〜8割、冷凍が2〜3割くらい。これを将来的には5:5くらいにしたいと思っています。
うちは無添加パンにこだわっています。冷凍で高品質の状態を保てるなら、添加物を使う必要はありません。実は他のパンメーカーの冷凍パンは、品質を安定させるために添加物が入っていることが多いのですが、高度な冷凍技術があれば添加物なしでも品質を保てる。これはうちにとって大きなチャンスだと思っています。
町のパン屋さんとは事情が違いますが、うちのような中規模のパンメーカーにとって、冷凍パンはとても相性がいい仕組みだと思います。計画生産ができて、ロスも減らせる。そして何より、品質へのこだわりを捨てなくていい。
人手不足が進むこれからの時代において、冷凍はパンづくりや生産のあり方を大きく変える可能性を持っていると感じています。無添加のパンを高品質のまま冷凍し全国に届けていくモデルを、これからもっと広げていきたいです。
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