昭和44年の創業以来、東京・池袋で長年愛され続けてきた老舗洋食店「キッチンABC」。看板メニューの「オリエンタルライス」をはじめ「舌ではなく脳が覚える味」の洋食料理を提供し続けています。2022年にはアートロックフリーザーを導入し、冷凍自販機やECを通じた冷凍商品の販売を開始。導入から約4年が経った現在、冷凍技術の役割は、新たな販路を開拓するだけでなく、店舗の仕込み負担軽減や品質の標準化、職人技術の継承へと広がっています。株式会社東京フードサービス代表取締役 稲田 安希様に、現在までの歩みや冷凍技術を活用した今後の事業展開について伺いました。
ーーーー事業を承継された経緯について教えてください。
「キッチンABC」は昭和44年に祖父が創業し、地域の皆様に支えていただきながら続いてきた店です。私自身はもともとIT企業に勤めていました。コロナ禍に「お店に行きたくても行けない」というお客様の声と、「料理を届けたくても届けられない」というスタッフの思いを聞き、「このお店をなくさないために、自分にできることはないか」と考え、勤めていた会社を退職し、家業を継ぐことを決意しました。
戻ってみると、大きく3つの課題がありました。一つは、既存事業が属人的な仕組みで成り立っていること。二つ目は、時代の変化への対応。そして三つ目が、自分自身がこの会社をどこへ向かわせたいのか。この数年間は、その3つの課題に向き合ってきたように思います。
ーーーーアートロックフリーザー導入当初と現在で、活用方法に変化はありますか。
導入当初は、冷凍自販機やECで販売する冷凍商品の開発が中心でした。現在は「新たな売上機会の開拓」と「既存事業のサポート」、この両軸で冷凍を活用しています。既存店舗は、職人を中心とした属人的な仕組みに支えられてきました。繁忙期になると仕込み時間が増え、スタッフの拘束時間も長くなります。そこで現在は、ハンバーグのタネやソース類をファクトリーで製造・冷凍し、各店舗へ配送しています。
例えばハンバーグは、以前は各店舗で冷たい肉を長時間手でこねていました。身体的な負担も大きく、人によってこね方にムラが出ることもあります。さらに「今月のおすすめ」にハンバーグを出すと、通常の1.5倍ほど注文が入り、その量を店舗で仕込むのは難しい。そこでハンバーグをこねる機械を導入し、まとめて製造できる体制に変えました。多機能調理器「iVario」も導入するなど、冷凍機だけでなく調理設備も充実させ、ファクトリーの製造体制を強化しています。


ソース類もファクトリーで一次加工し、店舗では濃度などを調整して完成させます。外食の経験は長くても、計画生産はまったく別の機能で、トライアンドエラーの連続でした。ただ、導入当初から冷凍食品を開発してきたことで、「この食材は冷凍に向いている」「こういう設計なら品質を維持できる」という知見が蓄積されていました。その経験が、今の店舗支援にも生きています。
ーーーー現在、冷凍商品の販路はどのように広がっていますか。
導入当初は冷凍自販機とECが中心でしたが、現在は百貨店と連携したお中元・お歳暮、介護施設への卸、オフィス向けの置き型社食など、販路が広がっています。外商向けカタログを通じて、一度に約200セット、2,000食規模のご注文を定期的にいただくこともあります。
EC(キッチンABC公式通販サイト)も、リピーターのお客様を中心に、前年比約2倍で成長。北海道や沖縄などの遠方から近隣のお客様まで幅広く、忙しく働く一人暮らしの方が「自宅にまとめてストックしておきたい」と購入してくださるケースも多いです。冷凍自販機は、始めたばかりの頃と比べると売上は落ち着いていますが、アイテムを絞り、補充の負担を減らすことで、利益が残る運用へと見直しました。その結果、売上は横ばいながらも、無理なく継続できています。


キッチンABCの商品には、家庭的だけれど少し贅沢な「ちょうど良さ」があるという声を時々いただきます。高級ホテルの料理ほど特別でなくてもいい。でも添加物の多い食事を続けることには少し抵抗がある。そうした方々にも選んでいただいています。
キッチンABCのコンセプトは「脳が覚える味」です。以前は「店の味をそのまま冷凍で再現するなんて無理だ」と思われていましたが、冷凍技術によって、これまで届けられなかった人にも届けられるようになりました。冷凍商品を食べたことをきっかけに、実際の店舗へ来てくださる方もいます。店と冷凍商品が連動して相乗効果を生んでおり、以前では考えられなかったことです。
ーーーー商品開発で印象に残っていることはありますか。
看板メニューの「オリエンタルライス」も、最初は冷凍商品として販売する予定でした。でも発売直前にやめたんです。ニラを電子レンジで加熱すると色が落ち、クタクタになってしまう。「これでは既存店のブランドを毀損する」と判断しました。ただ、今は販売しています。冷凍弁当ではなく、ミールキットに形を変えました。お客様にフライパンで5分ほど調理していただきますが、食材を入れる順番や加熱時間を細かく記載したレシピを付けることで、高い再現性を実現しています。
惣菜プレートでも、ハンバーグだけ中心まで温まりにくいという課題がありました。試行錯誤の中で薄いフィルムを活用したところ、解凍ムラが改善。黒カレーも、白いご飯にソースをかけて冷凍すると、ご飯がうまく温まりませんが、炒めたご飯と(ドライカレー)と組み合わせるときれいに解凍できる。こうしたことは、実際に試してみなければ分かりません。
商品数は、導入当初に比べて絞っています。計画生産の効果を高めるには、何でも作るのではなく、売れる商品を見極めることが重要です。一方で、商品開発に正解は一つではありません。一度うまくいかなかったとしても、諦めるのではなく、これまで蓄積してきた知見を活かしながら、方法を変えて試してみる。その試行錯誤を続けることを大切にしています。


ーーーー今後の展望を教えてください。
既存店舗には長い歴史とブランドがあります。良い部分がたくさんある一方で、大きく変えすぎることは難しい。だから今の店舗では、できる部分から改善しながら、ECなどを通じてキッチンABCの味を届けられる範囲を広げていきたいと思っています。
一方で、今後新しい業態を展開するのであれば、最初から冷凍を活用する前提で店舗を設計することもできます。湯煎やスチームコンベクションオーブンを中心に提供できる商品設計にするなど、既存店舗とは異なる仕組みも考えられます。
既存事業を守る役割と、新しい展開に挑戦する役割。それぞれを明確にしながら、その中心に冷凍技術を持つファクトリーがある形が理想です。職人が長年培ってきた感覚や技術は、キッチンABCの財産です。ただ、それをそのまま次の世代へ引き継ぐことが難しいという現実もあります。職人技を機械で代替するのではなく、職人技を守り、次につなげるために技術を使う。キッチンABCのブランドをより多くの方へ届けながら、職人にしかできない部分を守り、新しい業態にも広げていく。それを実現するための支えとして、これからも冷凍技術を活用していきたいと思っています。

時短ニーズや食品ロス削減への意識の高まり、そして将来的な人手不足への対応など、小売業を取り巻く環境は変わりつつあります。こうした中、スーパーマーケット「ダイエー」を展開する株式会社ダイエーでは、「アートロックフリーザー」 […]
秋田県大館市で長年地域に愛され続ける「割烹 美さわ」。比内地鶏スープのきりたんぽ鍋をはじめ、地元食材を活かした料理を提供する同店では、冷凍食品市場の成長に着目し、冷凍商品の開発に取り組んできました。導入から約3年の現在、 […]
卸に頼らず地元で価値を磨くために。揚げたて冷凍という新たな選択肢 大阪・箕面で地域に愛され続けるコロッケ専門店「コロッケ・クロケッタ」。祖父の代から受け継ぐレシピをもとに、イタリアンの感性を取り入れた多彩なコロッケを展開 […]